【事例2】親の遺言を明らかにしない兄の行動・・・遺留分の期限が迫る!

相続コンサルタントの井原です。

中流家庭のソウゾク事情【事例2】のご紹介です。

 

【事例2】

亡くなった方:父

法定相続人:子3人(年齢順に長男、次男、長女/妻は既に他界)

主な相続財産・・・自宅、現金(不明)

その他・・・遺言書あり。

 

コンサルタントの初見】

生前にお父様が「全財産を長男に相続させる」旨の公正証書遺言を作成されておられました。

現在、長男が亡き父の相続財産を全て管理しており、既に不動産の名義を長男に変更済みとのことです。

ご相談は次男の方からで、ご相談者自身は財産は要らないものの、長女はまだ遺言書の存在を知らず、長男から話し合いがもたれるのを待っているであろうとのことです。

背景として、昔から長男と長女は仲が悪く、父の生前に、数度にわたって父から長女へ金銭のやり取りがあったことが長男としては気に入らず、頻繁に口論になっていたそうです。

ご相談者としては、もし長女が遺言の存在を知った時に、自分にまったく取り分がないということで、新たな争いが起きないかを非常に心配されているご様子でした。

 

【ご相談の状況】

[遺言の有効性について]

ご兄弟の中で、長男が圧倒的な権力を持っており、誰も口答えが出来ない。恐らく父が残した遺言も、長男が半ば強引に父に書かせたものであろうとのことでした。

仮に父が長男に言われて、その通りの内容を遺言書に残したとしても、【公正証書遺言】を作成していた場合、遺言は有効となります。公正証書遺言は公証役場で作成し、必ず公証人が本人と面談し、遺言の内容に間違いがないかどうかを確認して作成します。もし、脅されて作ったものであったとしても、遺言は何度も書き直せる為、意に沿わない内容であれば書換が可能であるためです。

従って、遺言を残していた場合には、その遺言に従った財産の配分となります。

”なお、もし相続人全員が合意すれば、別の内容とすることも可能です。”

 

[遺言の存在について]

今回のご相談者に限らず、「(財産を管理している相続人に対して)相続財産の全てを開示してほしい」と多くの方がおっしゃいます。心情としては非常に理解できますし、倫理的にはそうすべきであろうと思います。ただ、法律的には、遺言書があり、全ての財産を特定の相続人に相続させると書かれている場合、財産を開示しなければならない義務はありません。

今回、長女が遺言書の存在を知らないとの事ですが、長男は遺言書があることを長女に知らせる法的な義務は無く、また自分に全て相続するとの内容であれば、各種手続きは遺言書があれば基本的には足るため、いつのまにか全ての財産の名義が変わっていたり、現金も引き出されていたという事はあり得ます。ただし、手続き的には可能であっても、相続人間のトラブルを避けるためにもやはり全員に開示すべきでしょう。

[遺留分について]

遺留分とは、遺言で自分には取り分が無い(もしくは遺留分割合に届かない)とされた相続人(今回は次男、長女)より、最低限の取り分を主張することが出来る権利をいいます。

遺留分の主張ができる期間は決まっており、【①相続があったことを知ったこと】と【②自分に相続財産が無いことを知ったこと】のいずれもが満たされてから1年以内とされています。

また、主張できる取り分(遺留分割合)は、法定相続分の1/2が上限となっています。

今回のケースで具体的に言うと、

①は父が亡くなった事を知る(お葬式に出席しているので当然知っている)

②遺言書を確認した、長男から取り分は無いと言われたなどの時点となります。

また、遺留分割合は、次男、長女いずれも1/6(法定相続分である1/3の半分)です。

 

①については海外赴任中で連絡を受けていないなどの理由を除きある程度明確ですが、②は法律的に非常に争いがあるところで、自分に相続財産の取り分が無い(もしくは少ない)事をどの時点でしったのかは、様々な状況から総合的に判断されるため注意が必要です。(主張する側からすると、極力後ろの日付にしたいはず)

従って、もし遺留分を主張するのであれば、そういった心配のない「亡くなって1年以内」に行うのがベストとなります。遺留分の主張は、内容証明等の書面で行っておけば、そこから10年間は遺留分相当額の取り分を請求できるので、まずはしっかりと書面で通知をしておくことが重要です。

なお、遺留分を主張された相手方(長男)は、拒否する権利はありません。

 

コンサルタントの感想】

上記のようなご説明を私からさせていただいた後、最後にご相談者の方がおっしゃっていたのが「長女に遺言の存在を知らせるべきだろうか・・・。もし知ったら鬼の形相で起こるだろうな。」と。

遺留分の請求には期限がありますので、知らせるのであれば少しでも早いほうが良いのでしょうが、それをしてしまうと、逆に長男にひどい目に合わされるのではないかと思い、とても気持ちの整理がつかないとのことでした。

相続の場面では、「こうすれば必ずうまくいく」といった正解は無く、ご相談に応じてオーダーメイドでの解決策を模索していきます。


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